但馬CULTURE VOL.73 山の中なのに?「海上(うみがみ)」地名の秘密


兵庫と鳥取の県境、扇ノ山山ろくに広がる上山高原。ブナ林とススキ草原で知られる高原へ向かう山道の途中に突如現れる小さな集落が、新温泉町の「海上」です。

―不思議な地名

標高350〜400メートルの山あいに位置する海上。まず驚くのは、なんと言ってもその地名です。

「どうして山の中なのに海上なの?」と、訪れる人は誰もが疑問に思うそうです。謎を解くカギは、古くから残る村の伝承にありました。

―湖の言い伝え

その昔、海上の北西に位置する牛ヶ峰山が崩れて小又川がせき止められ、この地が湖のようになったそうです。村の人は湖に浮かぶ児嶋に家を建て、村を湖の上と名付けましたが、いつしかこの土地は「海上」と呼ばれるようになりました。その後、山崩れでできた湖の水は土手を破り、流れ出たと言われます。そのことを裏付けるかのように、周辺には児嶋、湊など水に因んだ地名が多く残っています。

また氏神である児嶋神社にも、湖があったことを示す言い伝えが残っています。神社は石の丘に建っており、かつてこの石は牛ヶ峰山から落ちてきたものとされています。海上側の山頂には大きくえぐられたような跡があり、山すその石と神社の石は同種の物であるそうです。

―米と海上

静かで環境の良い海上ですが、冬には積雪が2メートルを超えることも。交通の便がよくなる前、村の男たちは半年棚田で米を作り、残りの半年は酒造りへと出稼ぎに出ていました。最盛期には全国各地の酒蔵で40人もの杜氏と蔵人が酒造りに活躍していたそうです。

村の主な産業は米作り。小又川渓谷沿いに20町歩の棚田が広がっています。海上の棚田は渓谷の清水と寒暖の差の激しい気候により美味しいお米が穫れ、棚田米「うみゃーなぁー」として人気を得ています。他にも空き家を利用した交流拠点施設「うみがみ元気村」を運営するなど精力的な地域活動が評価され、海上地区は2019年に「​豊かなむらづくり全国表彰」にて農林水産大臣賞を受賞しました。

―もう一度訪れたくなる場所

名所「小又川渓谷」は集落の上流にあり、県の名勝に指定されています。他にも大小数多くの滝が点在し、中でも僧侶が修行したとされる「シワガラの滝」や、落差35メートルの「桂の滝」は美しい姿で知られています。

植物や昆虫の化石も多く出土し、歴史的にも珍しい場所である海上集落。時が止まったかのような風景の数々に、訪れた人は誰もが「もう1度訪れたい」と思うことでしょう。

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■新温泉町 観光ガイド
[所]兵庫県美方郡新温泉海上
(HP)小又川渓谷(町HPより)
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