但馬CULTURE VOL.89 但馬の名品 松葉ガニ物語《豊岡市・香美町・新温泉町》


山海に恵まれた兵庫県北部の但馬地域。その中でも、日本海に面した豊岡市・香美町・新温泉町では、冬になると「松葉ガニ」が旬を迎えます。冬の味覚の王者「松葉ガニ」が、同地域でブランドガニとしてその名が広まっていった背景には「カニすき」文化の流行や、カニ漁を支え続けている人たちの存在がありました。今回は「但馬産松葉がに」の歴史を紹介します。 

―但馬と「松葉ガニ」の関係

但馬とは豊岡市・養父市・朝来市・香美町・新温泉町の5つの市町からなる地域のことです。

そのうち「但馬産松葉がに」を水揚げしているのが、東から豊岡市の津居山港、香美町の柴山港・香住漁港、新温泉町の浜坂漁港・諸寄漁港です。漁期は毎年11月6日〜3月20日まで。漁期間中は資源管理に取り組みながらカニを狙って漁へ出ていきます。

「松葉ガニ」の標準和名は「ズワイガニ」です。但馬を含む山陰地方では、成長した「ズワイガニ」のオスのことを「松葉ガニ」と呼んできました。日本海側でも水揚げされる地域によってその呼び名が変わり、北陸では「越前ガニ」、「加能ガニ」などとも呼ばれています。

「松葉ガニ」と呼ばれる由来は諸説あり、
・長い脚の形状が松葉に似ているから
・漁師が浜でカニを茹でる時に松葉を使ったから
・生のカニの身を冷水にくぐらせると身が開いて松葉のようになるから
といった3つの説が主に語られています。

親になるまで約8〜10年かかり、最大12回の脱皮で成体となるそうです。

一方で「松葉ガニ(オス)」よりも小ぶりなメスのことは「セコガニ」と呼んでいます。こちらも地域によって「親ガニ・コッペガニ・香箱ガニ」と呼び名が異なります。

産地で呼び方が違う「松葉ガニ」。但馬でも地域ごとに、例えば津居山港では「津居山かに」、柴山港では「柴山がに」、香住漁港では「香住港まつばがに」、浜坂漁港・諸寄漁港では「浜坂産松葉がに」と名付けられ、各漁港でブランド化されています。

現在では「松葉ガニ」の一大産地となっている但馬地域ですが、「昔はカニを捨てていた」「畑の肥しだった」「セコガニは子どものおやつだった」という過去もあり、決して高級魚ではありませんでした。

―脚光を浴び始めた但馬の「松葉ガニ」

昭和30年代半ば、但馬でカニといえば、漁の網に引っかかって獲れる副産物のような扱いでした。食べ方も茹でて行商で売られるか、缶詰加工されているぐらい。

そんな但馬の「松葉ガニ」が脚光を浴び始めたきっかけは、香住に宿泊した常連客が頼んだ「カニすき」という料理が始まりです。「カニすき」とは、かにを寄せ鍋のような薄口のだしに入れて煮立て食べる料理のこと。カニの旨味が凝縮された料理は、都会で評判が良く、いつしか「カニすき」を求めて但馬に訪れる人たちが増えるようになったのです。

―タグはブランドの証

「カニすき」で脚光を浴び始めた但馬の「松葉ガニ」。その名が知れ渡るようになっていった要因は、まだあります。それがカニの腕に付けられたタグと、日帰りでのカニツアーが人気になったことです。

カニの腕につけられたタグには、従来、産地を表示するための意味合いがありました。水揚げされる漁港や地域によってタグの色・形が違い、表面に漁船名や港名が刻まれています。これらのタグは、いつしかマスコミなどの影響で、ブランドガニの証としても力を持つようになり、タグを導入していた但馬の「松葉ガニ」や漁港名も、このことがきっかけでその存在が広まるようになりました。

しかし「松葉ガニ」の産地は日本海に面する福井や京都北部、鳥取など但馬地域以外にもあり、漁港の存在と名称は知られていても、「カニ」といえば「但馬」とは結び付きにくいものでした。

この状況を変えるため、令和2年に発足したのが「但馬産松葉がに普及推進協議会」です。同協議会は、それまで各漁港が行っていた「但馬産松葉がに」のPR活動を一体化するために設立されました。「但馬産松葉がに」のための協議会で、漁協・水産加工業協同組合・観光協会・商工団体・市町など19もの団体で構成されています。

「但馬産松葉がに」には、各漁港のブランド力が高いことに加え、カニの選別(ランク分け)が日本一厳しいこと、活ガニにこだわり、水温調整可能な冷水機でカニの活力を保つといったカニの扱いが丁寧であることなど、強みがたくさんあります。これらの強みをより多くの人に周知するため、同協議会ではHP・instagramを通じて地域の港と各ブランドガニの魅力の発信やパンフレットなどの広告物の配付、カニのフォトコンテストといったイベントを運営しています。

但馬5つの漁港同士で競い合うのではなく、むしろ協力し合いながら地域で一丸となってPRに努めている「但馬産松葉がに普及推進協議会」の取り組み。「カニといえば但馬」を目指し、今ではカニがモデルコースのプランに入ったり、地域のお祭りの一つになっていたりと観光ツールにもなっています。

―ナンバーワンを目指して

取り組みを知る上で忘れてはいけないのは、影で支えている人たちの存在です。

カニ漁を行う沖合底びき網漁業では「人手不足」への対策として、海外からの技能実習生の受け入れています。また、厳しい資源管理でカニ資源を守るなど、ベテランから若手まで、日々カニと共生する地域の未来のために尽力しています。

但馬地域に訪れた際には、ぜひ現地の風土を感じながら、新鮮なカニを味わってみてくださいね。

LINK UP   但馬の名品 松葉ガニ物語

■関連サイト
・但馬産松葉がに普及推進協議会
[HP]
https://tajima-matsubagani.wixsite.com/official
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