『このお米には「数え切れないほどの生きものの命」が宿っている』とは、『コウノトリ育むお米のヒミツ』と題した冊子の冒頭に書かれた言葉です。米に命が宿るとはどういう意味なのでしょうか。無農薬・減農薬・有機栽培はもちろん、「生きものを育む」という付加価値を持つ「コウノトリ育むお米」をご紹介します。
― コウノトリと生物多様性
一度は聞いたことがある、「生物多様性」という言葉。これは地域の中で育まれてきた多様な生きものが、互いにつながりながらバランスを保って暮らしている状況を表します。この「生きもの」にはもちろん人間も含まれます。しかしながら、人間は自分たちの都合に合わせて自然環境を変えてきました。そのため多くの生きものたちが絶滅の危機にさらされ、日本から姿を消したものもいます。
その一つの例として、但馬で親しまれているコウノトリが挙げられます。コウノトリの日本最後の生息地である豊岡市では、2005年に復活を目指す野生復帰プロジェクトがはじまりました。現在も続くその取り組みの一環として、田んぼをコウノトリの住みよい環境に整える「コウノトリ育む農法」があります。
― お米と命、同時に育める環境を
コウノトリが絶滅した背景には、餌となる魚やカエルが農薬により減少したことに加え、乾田化により湿地が減ってしまったことが要因だといわれています。元々豊岡はジル田といわれる湿地帯が多い土地で、生き物にとっては最高の環境でした。コウノトリ最後の生息地だった理由も、そこにあるといわれています。
田んぼは生物多様化を考える上で、とても重要な場所です。農業の様々な活動を通して里山が形成され、多くの生きものが共に暮らす環境が作り出されてきました。「コウノトリ育むお米」作りのコンセプトは、「お米と生きものを同時に作ること」です。無農薬・減農薬・有機栽培といった価値に加え、「生きものを育む」という、今までの農業の常識を打ち破る新しい付加価値を持ったお米です。
― 「コウノトリ育むお米」が農業を変える
「コウノトリ育む農法」の大きな特徴は、何と言っても水の管理にあります。冬でも田んぼに水を張り、通常6月に行われる中干し(水を抜いて田んぼを乾かす)作業も、オタマジャクシがカエルに成長するまで延期し、コウノトリの餌となる生きものを育てるべく湿地の状態を保つようにしています。さらに、田んぼと水路には生きものが行き来しやすいように魚道を設置しました。安心・安全なお米を作ることはもちろん、様々な生きものを増やすという意思のもとで、田んぼが作られています。
水の管理や土作りを含め、手間の多い「コウノトリ育む農法」。今までの農法と180度違うため、当初は農家から不安の声もありました。しかし5人からスタートした取り組みも、今では但馬中に広がっています。その広がりの大きなきっかけとなったのが、平成17年9月に行われたコウノトリの自然放鳥だったといいます。大空に舞う姿を見た瞬間、その美しさに多くの農家が魅了されました。
― 未来ある米作り
農薬や化学肥料に頼らず、環境を育んでいく米作り。現在は関東にも出荷されるなど、徐々にそのおいしさが知られつつあります。また米粉にも加工され、お菓子などにも使用されています。
しかし生きものと共生する米という付加価値の重要さは、まだ十分認識されているとはいえません。この「コウノトリ育む農法」の田んぼには、さまざまな生きものと同時に、安全で安心なおいしいお米が育まれます。命の中で育まれたお米を食べ、自然との繋がりを考えるきっかけにしてはいかがでしょうか。
LINK UP コウノトリ育むお米
■豊岡市役所 コウノトリ共生課 [所]兵庫県豊岡市中央町2-4 [問]0796-21-9017 |