但馬CULTURE VOL.8 但馬杜氏文化と但馬の酒造り


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但馬人は昔から素朴で実直、粘り強く、忍耐力があるとされてきました。こうした気質は険しい山や谷間が多く、雪深い気候が大きく影響しています。酒造りの最高責任者、日本四大杜氏に数えらえる「但馬杜氏」も、こうした但馬の風土が育てた文化と言えます。杜氏の数だけ銘柄があるとされる酒造りの世界。但馬杜氏の歴史と但馬の酒造りをご紹介します。

― 「但馬杜氏」の偉大さ!

 杜氏(とうじ)とは酒造りの最高責任者のこと。酒造りは杜氏・蔵人(くらびと)のグループが、新米の刈り入れの終わる10月頃から翌年の春まで、約6~7カ月の間、家を離れ、酒造会社の蔵元に泊まり込んで行なわれます。酒蔵によって人数は異なりますが、数人から20人程度の蔵人がチームを作り、杜氏の指導のもとで酒造りの作業を行います。「一蔵一杜氏」と言われるように、杜氏の数だけ酒の種類があると言われています。

 但馬では、特に雪深い地域の人たちが冬季の働き場所を求め、出稼ぎとして、全国各地に酒造りに出かけました。但馬の人は昔から、慎重で誠実、質素にも耐えて思いやりがあり、粘り強い精神力が特長です。そうした気質は厳しい酒造りの世界では重宝され、主に伏見などの近畿一円、中国、四国、東海地方で活躍しています。但馬杜氏は南部杜氏、越後杜氏、丹波杜氏と並んで「日本四大杜氏」と言われ、粘り強さと確かな技術は、毎年新酒鑑評会においても優秀な成績を上げ、全国的に高く評価されています。

― 記録に残る但馬杜氏の歴史

 但馬の杜氏が歴史に登場してくるのは、今をさかのぼること約180年前。時は天保8年(1837)2月、大阪で起こった大塩平八郎の乱に関連して、大和(奈良県)でも暴動が起き、浪士・吉村寅次郎は同士を率いて大和郡山城を攻撃しました。その時、小代庄城山(香美町小代区)出身の杜氏・藤村某が登場します。藤村は自分の蔵人だけでなく、周辺にいた杜氏蔵人を引き連れ、城の守備に当たったと言います。その中で明らかになったのは、当時すでに数多くの但馬の杜氏がこの地方に出かけており、その代表格であった藤村は社会からも認められ、危機に際しては城主の信頼も厚かったということです。「真面目で実直」。この頃から但馬杜氏の脈々と続く伝統と気質は今もなお受け継がれているのです

 平成4年(1992)の記録になりますが、全国の杜氏は1,754人、但馬の杜氏は全体の1割を占め、近畿を中心に中国・四国・北陸などで活躍していました。しかし、その数も20年前と比べると4分の1、5分の1に減少し、高齢化も進んでいます。また、冬季の出稼ぎシステムも時代にそぐわなくなり、最近、酒造りも機械化されてきました。しかし、機械では造ることのできない部分がどうしてもあります。そこでは杜氏の積み重ねられた熟練の技が必要です。酒の味はその経験と知識で決まります。但馬杜氏が織りなす手づくりの魅力は依然として全国で重宝されています。

― 但馬のうまい地酒で一杯

  但馬各地にうまい酒あり。きゅ~と一杯、甘露の雫を楽しむ。日本酒ひとつとっても、精米歩合が50%以下、蔵元自信作の日本酒市場を彩る大吟醸酒、アルコール分20度前後と高く濃厚な原酒、フレッシュな風味が特徴の生酒のほか普通酒をはじめ、純米酒・本醸造酒・吟醸酒・山廃など、製造方法や原材料の違いによって多くの種類があります。

 但馬の地酒の歴史も古く、江戸時代から創業という老舗がほとんどで、但馬ならではの風土と人情が醸し出すうまい酒を造り続けています。近年では、地元の特産品を活かしたワインや発泡酒、焼酎なども造られています。銘柄からもその地酒に込められた味わい深さを感じとることができます。特に新酒が登場する冬の季節は、松葉ガニ漁が最盛期を迎えます。日本海で獲れた美味しいカニやお魚には、やっぱりその土地の地酒と合わせるのが一番。清らかな水と美味しいお米で造られた但馬の地酒は人気があります。

 明治の頃には但馬の酒造家は144軒、酒造米は1万3千石であったと記録されています。現在、但馬には造り酒屋が「香住鶴(香美町)」「銀海酒造(養父市)」「田治米/竹泉(朝来市)」「此の友酒造/但馬(朝来市)」の4つとなりましたが、それらは但馬の杜氏が造っています。どこの酒蔵も昔ながらの製法にこだわり、伝統を守り続けています。

― 但馬杜氏の技にふれる!

 今回取材をした「香住鶴株式会社」は、創業享保10年(1752)という老舗酒蔵。但馬杜氏の伝統を受け継ぐ歴史ある蔵元です。酒造りは寒さが増すにつれて、慌ただしくなっていきます。蔵人たちの朝は早く、午前5時に出社して作業を始めます。

 酒造りには冬の朝の寒さがとても大切。麹造りでは、洗った米を蒸し、蒸し上がった米を冷まし…といった、工程によって温度差が激しい作業が大半を占めます。そして、この麹造りには二昼夜の時間を要し、寝ずの番が続きます。自分の体を管理することも蔵人の仕事。健康面はもちろん、普段の食事も気を付けなければならないと言います。

 「蔵人は冬になると納豆やヨーグルトは食べないんですよ」とは、香住鶴の福本澄子専務。麹菌より強い納豆菌や乳酸菌が、蒸米や麹に混ざると酒造りが台無しになってしまうため、冬はこれらを口にしないそうです。

 「酒造りは毎年が一年生』と話す、杜氏と蔵人たち。温度、米、水との複雑な自然の原理が影響する酒造りは、数値や理論だけでは成立しないと言います。杜氏歴50年以上のベテランでさえ、毎年の酒造りには神経を使うそうです。昔から「一麹、二もと、三造り」と言われるように、「もと(酒母)」造りは酒造りの要となる部分。香住鶴では味に関わってくる作業はあえて人間の手で行っています。

 後継者不足により但馬杜氏の数が減少している現在、香住鶴では年間を通して働けるよう「社員杜氏」の育成にも力を入れています。「杜氏には香住鶴の味を守っていく責任がある。味と品質を落とさないようにしなければ」と、香住鶴の社員杜氏・松本幸也さんは話します。杜氏と蔵人が全神経を集中させて醸す、本物の酒造り。香住鶴では伝統の技と最新の設備を体感できる蔵見学も行っており、但馬杜氏の技を身近に感じることができます。

LINK UP 但馬杜氏文化と但馬の酒造り

■香住鶴株式会社(銘柄:香住鶴)
[所]兵庫県美方郡香美町香住区小原600-2 [問]0796ー36ー0029
*直売処[時]9〜17時 [休]無休 ※蔵見学は10〜15時半(当日予約も可)
(HP)http://www.fukuchiya.co.jp/

■銀海酒造有限会社(銘柄:銀海)
[所]兵庫県養父市関宮756-5 [問]079-667-2403
(HP)http://ginkai-syuzo.com/

■田治米合名会社(銘柄:竹泉)
[所]兵庫県朝来市山東町矢名瀬町545 [問]079-676-2033
(HP)http://www.chikusen-1702.com/

■此の友酒造株式会社(銘柄:但馬)
[所]兵庫県朝来市山東町矢名瀬町508 [問]079-676-3035
(HP)http://www.konotomo.jp/

 

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