天空の城・竹田城跡の麓、山間に田畑が広がる一帯に『ありがとんぼ農園』と名付けられた田んぼがあります。無農薬やオーガニックといった言葉がそれほど一般化していない15年前に、「自然農法」での作物栽培を始めた岡村康平さん(1978年生まれ)。自然の恵みに感謝しながら、独自のスタイルで農業し、暮らすユーモア溢れる岡村さんのお話です。
― 農業への第一歩は”下心”から
岡村さんはご両親が農家なわけでもありませんし、高校時まで農業に特に興味があったわけではありませんでした。転機となったのは、大学進学のとき。当時交際していた彼女との”同棲キャンパスライフ”を夢見て同じ大学を受験しましたが、あえなく失敗。それでも彼女の近くに住めるところを探して受験したのが愛媛大学の農学部でした。
「農業への第一歩はいわば下心から始まりました。」
そんな岡村さんでしたが、教授や農家さんの話を聞いたり、農業の世界を知るなかでどんどん「農」の魅力にのめりこんでいくようになります。そして、研究室の本棚にある農業の本を片っ端から読みあさり、農学を学びながら、実際に全国の農家を巡って見識を広めていきます。ある日、地元の和田山町朝日で「あーす農場」という自給自足の生活をしている家族がいると聞いた岡村さん。偶然にもその長男が中学時代の同級生ということで彼を訪ねた際、たくさんの炭を担いで山を降りてきた姿を見て、敗北感を感じたと言います。
「山で炭焼きをした後で真っ黒の姿の彼を見て、なんか負けたな…と思いました。そこで、地元に帰って農業をしよう。彼が近くに住んでいるなら何とかなるだろうと、農業の世界で生きて行くことを決意しました。」
― 『農的』から『農業』の暮らしへ
大学卒業後、朝来市和田山町に戻った岡村さん。全国の農家を巡った中で”1番合理的だ”と辿り着いた、無農薬・無肥料で、できるだけ自然の力に任せて育てる「自然農法」をベースにした新たな農業のカタチに挑戦しはじめます。しかし、すぐにはうまくいきません。ましてや今ほど”無農薬”や”オーガニック”といった言葉が浸透していない当時、周囲の理解は得にくかったでしょうし、失敗も何度もしました。
「当時の自分は『農業』というより『農的』という言葉が当てはまります。今考えるとまだまだ家庭菜園レベルのようなもので悩みの連続でしたね。」
それでも岡村さんは試行錯誤を繰り返し、「田に水を川のように流す」「除草をしない」「同じ田で様々な品種を育てる」など従来型の農法では考えられなかった独自のスタイルを築いていきます。そして、結婚を期に金銭的な意識も高まり、『農的』から本格的に『農業』の暮らしへと意識が大きく変わっていきました。
― 作物を育てるのは太陽と雨、大地。自然の恵みに感謝や!
38種類のお米をブレンドした「イロイロ米」の大ヒットを皮切りに、岡村さんが育てた大豆が農業の全国的人気雑誌「現代農業」の表紙を飾るなど高い評価を得て、今や岡村さんの農業スタイルから生み出される農産物や加工品を求めて都市部から多くの人が来訪するようになりました。
「イロイロ米は赤米、黒米、紫米、もち米など、38種類もの稲がお互いを助け合いながら育っていて、そんな強い姿を見て、人間もそうなればいいなと。ちょっとクサイですけど、イロイロ米には世界平和への想いも込められているんです」と笑顔で話す岡村さん。最近では、そんな自然の恵みに感謝して生きる生き方、暮らし方に共感し、朝来市に移住を希望する若者が増えているそうです。
「作物は太陽と雨、大地が育ててくれる。自然の恵みに感謝や!」
「頑張りすぎたらアカン。頑張った味の不味いものになる。」
ユーモア溢れるトークの間からふと出てくる飾らないシンプルな言葉に、岡村さんが試行錯誤しながら築いてきた”哲学”が詰まっています。
― 自然、農業、暮らし、ひと。
農業を始めてから今まで、ずっと好奇心が継続していると言う岡村さん。実は今住んでいる家も「自分の家を建てたい」と、近所のおじいさんに竹の編み方を教えてもらったり、左官のアルバイトをして土壁の塗り方を覚えたりして、なんと昔ながらの作り方でイチから家作りにチャレンジしました。
また、冬は味噌作りや林業をしており、実は夏よりも忙しくなります。「山仕事が面白いので、これからは林業をもっとやりたいです。今は頭で考えながらしていますが、体が覚えて自然にできるようになるまでやりたいです」と、まだまだ好奇心のスピードは緩みません。園舎を持たず大自然の中で子どもたちが遊ぶ『森のようちえん』の取り組みをはじめ、子どもたちに自然の素晴らしさを伝える活動もしています。
「今もたくさん教えてもらうことがありますし、色んな人に迷惑をかけて自分なりの農業をさせてもらっているので、農家さんに対する尊敬や感謝の気持ちはすごくあります」と岡村さん。「農家って企業秘密が無いんですよ。いかに楽に生きるかを皆で追求している職業なんです。農家の集まりになると皆で農業の話ばかりしていて、周りも農業が好きでやっている人ばかりです」。
先人と自然への感謝の心を忘れず、人のつながりを大切にしていく岡村さんの周りにはいつも笑顔の輪が広がっています。
LINK UP 岡村 康平
■ありがとんぼ農園 [問]079-674-0120 ■オーガニッククロッシング(通販サイト) (HP)http://www.organic-crossing.org/cn28/cn29/pg277.html |