但馬STYLE VOL.42 上垣河大さん《養父市》


ショコラティエとは、洋菓子の中でも特にチョコレートを専門に扱う職人のこと。素材の知識や扱い方はもちろん、温度管理など高い技術が要求されます。
兵庫県養父市大屋町から、世界で活躍するショコラティエ 上垣河大さんにお話を伺いました。

―世界レベルのショコラを学ぶ

子どものころからお菓子づくりが好きだった上垣さん。10代から家業である農業を手伝いつつ、独学で洋菓子を作っていました。

そんな上垣さんが本格的にショコラの世界に足を踏み入れたのは20歳のころ。京都府福知山市にある洋菓子の名店「マウンテン」を知ったことがきっかけでした。マウンテンのオーナーである水野直己シェフは、世界的に権威のあるワールドチョコレートマスターズで優勝経験もあるショコラティエです。

25歳になった上垣さんはショコラティエとして独立し、自分のブランドであるle fleuve(ル・フルーブ)を立ち上げました。販売店舗を持たず工房のみでお菓子作りを行うスタイルは、当時のショコラ業界では大変珍しかったそうです。そこには徹底した食材へのこだわりがありました。

―本当に良い素材を求めて

上垣さんのお菓子作りは素材探しから始まります。
「果物やナッツといったお菓子の材料は、本当に美味しいものを作っている農家さんから直送してもらっています。一般的に流通させようと思うと量が必要になるため、品質よりも収穫量が優先されることが少なくありません。完熟した果物は痛みやすく手間やコストが何倍もかかります。店舗を持たないからこそ、全ての力をお菓子作りに注げるんです」

そう語る上垣さんの実家は、循環型農業を基本とした無農薬有機栽培を営んでいます。自身も長年生産者として食材に携わってきたので、安全で美味しいものを作るための大変さがよく分かると上垣さん。その手が生み出すショコラは繊細で、一口食べるとそのフレッシュさに驚かされます。口の中に瑞々しい素材の味が広がり、時間と共に香りが変化します。
「ショコラを通して生産者の顔まで見えるような、そんな素材の味を引き出すお菓子作りを大切にしています」と教えてくれました。

―悩む子どもたちに向けて

またle fleuveでは、不登校の子どもや親を対象にした工房見学も行っています。上垣さん自身も、小学校高学年ごろから学校に通えない時期があったそうです。
「今はそんなことないと言えますが、子どもにとっては学校は世界の全てです。学校に行ってない自分は何もしていないんじゃないかと、当時は取り残されるような焦りを感じていました」

孤独を感じる辛い日々を変えたのは、かつて不登校児だったという庭師の青年との出会いでした。
「生き生きと仕事をする彼の姿を見て、“学校に行っていなくてもこんなに立派に働けるんだ!”と励まされました。学校に通わないことは何もしてないわけではありません。じっくりと農業に取り組んだ体験やお菓子作りなど、不登校時に積み重ねた経験があったから今の私があります」

何事にも深く取り組み、ショコラという自分の武器を見つけた上垣さん。その腕前は今や世界に認められ、インターナショナルチョコレートアワードのワールドファイナルでは2大会連続入賞を果たしています。

―養父から世界へ

上垣さんの代表作の一つに、幻の日本酒「仙櫻(せんさくら)」を使用した日本酒ショコラがあります。仙櫻は養父でとれた蛇紋岩米(じゃもんがんまい)と氷ノ山の名水「ぶなのしずく」を使用し、明延鉱山の坑道跡で半年熟成して作られた銘酒です。仙櫻の味わいを活かしたショコラは、食べた人からも「使われている日本酒を飲みたい」と言われるほど。ショコラを通して、養父の魅力も広がっています。

「養父市は静かで娯楽が少ないかもしれませんが、その分集中して物づくりできます。都会も楽しくて好きですが、暮らすなら自然の多い環境が良いですね。今悩んでいる子どもたちに、こんなにも楽しく働いてる私の姿を見て欲しいです」。そう笑う姿は晴れやかで、これからどんなショコラを作ろうかと希望が溢れています。

le fleuveの洋菓子はホームページから通販することができる他、予約すれば直接工房でも受け取れます。イベント催事などでも出店しているので、ホームページやSNSを確認してください。

こだわりのためには手間隙を惜しまない上垣さんのショコラ。引き出された素材の魅力を味わいつつ、贅沢な時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

LINK UP   上垣河大さん

■le fleuve(ル・フルーヴ)
[所]兵庫県養父市大屋町蔵垣947
[TEL]050-5217-5675
[Mail]info@koudaiuegaki.com
(HP)https://www.koudaiuegaki.com/
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