但馬STYLE VOL.47 南谷雄大さん《朝来市》


 

兵庫県朝来市山東町と京都府福知山市の間に広がる緑豊かな夜久野高原。ここでぶどう農家とカフェを営んでいるのは「南谷農園」代表の南谷雄大(みなみたにゆうた)さんです。「きつい」「汚い」「稼げない」といわれる農業のイメージを覆し、次世代の農業従事者を増やすために日々さまざまな取り組みをされています。

―農業と日本の未来を変えたい

もともと愛知県でコンサルティングの仕事に従事していた南谷さんは、就農を機に2018年より朝来市にIターンしてきました。同地域でぶどうの栽培も行っていた農家の方に師事し、研修などを経て「南谷農園」を設立。2020年には農園の中にカフェ「Sticks Coffee(スティックスコーヒー)」を開業し、複業農家として活動しています。その他にも栽培したぶどうを使用して近隣の高校と商品開発をしたり、経営や商業マネジメントについて講師を務めるなど、農家の域を超えて幅広く活動しています。

就農しようと思ったきっかけは、サラリーマン時代に出会った一冊の本でした。「読み進めていくうちに、日本の農業従事者の半分以上を高齢者が占めており、若者の従事者に関してはほとんどいないことや、新しく農業に従事する若者の人数も年々減っていることを知りました。そのことがずっと忘れられなくて」と南谷さん。数年して、新しく新規就農する若者の数値を調べてみると、その割合はさらに減少していることを知ります。

「このままいくと輸入に頼れたとしても、子どもたちが虫を食べて育たなくてはならなくなるかもしれない」という危機感と、コンサルティングの視点から「この課題を解決することはビジネス的にもチャンスがある」と考え、農家になることを決意したといいます。以来、農家を増やして日本の未来を変えていくことが、大きな夢の一つとなりました。

(※)ここで使用している「複業」とは、本業とは別に取り組む仕事を指す「副業」のことではなく複数の仕事を本業として取り組むことを指す言葉です。

―農業は掛け合わせれる


(農園のぶどうと農園兼カフェスタッフ<南谷農園 Instagram>)

南谷さんが栽培するために初めて選んだ農作物は、自身も大好きだという「ぶどう」です。農家になるといっても農業は初心者だったため、インターネットの情報だけでなく新規就農相談センターに問い合わせ、就農に関する知識や資金のこと、そして畑の場所の相談など正しい情報を仕入れながら準備を進めました。

農家というと多くの人が生産者を思い浮かべるかと思いますが、南谷さんの目指す農家は生産者ではないと話します。南谷さんの思う生産者と農家の違いとは「『スーパーや道の駅、八百屋など契約したお店で販売するために野菜や果物を作っているのが生産者』であり、農家とは『作った農作物を直売所で販売したり、飲食店へ直接卸したりと自力で販路を見つけ、販売・提供する人』」だと考えているためです。

「農業について調べていくと、JA(農業協同組合)などを介して卸先へ農産物を卸すのは農家ではなくて生産者だということを知りました。安定した卸先があるのは安心ですが、せっかく作った農作物も手数料が引かれて手元に残る金額が少なくなるのが嫌で、自分たちで作ったものを自分たちの力で売ってみたいと思ったんです」と南谷さん。ぶどうの栽培場所に関しても、有名な産地で作るとなると品種や量、販路も決められていることを知りました。そのため産地外でぶどうを作れる場所を探していたところ紹介されたのが、朝来市にある夜久野高原でした。

今では20種類以上の種なしぶどうの管理をスタッフと共に行っている南谷さん。育てたぶどうは契約した都会の飲食店を中心に販売。選別の過程で市場に向かなかったものは、ぶどうジュースにしてカフェの店頭とオンライン上でボトルにて販売するなど一年を通してぶどうが楽しめるように工夫をしています。

―農業をやってみたいと思える職業へ


(複業農家の魅力を楽しく表現したいとの思いから誕生した個性豊かなチュロスたち<Sticks Coffee  Instagram>)

次世代に農業の魅力を発信するための拠点となっているカフェには、カフェ利用のお客さんだけでなく、遠方から複業農家の話を聞きに来るお客さんも現れています。畑の拡大とともに雇用したスタッフが農作業の合間もお金を稼げる場所にもなりました。

同店で販売しているTシャツや帽子、マグカップなどアパレル商品も全て南谷さんがデザインしたもの。カフェにはコーヒーだけでなく3ヶ月に一度、農園運営メンバーと案を出し合い決めたこだわりのスイーツなども販売しています。「今後はアパレルにもっと力を入れたいですね。いつかはツリーハウスも作りたいと考えているんです」と話す南谷さん。

温暖化や農家の減少によって生産が危ぶまれている大好きなコーヒーについても、インドネシアのコーヒー農家から直接コーヒー豆を仕入れることで、コーヒー農家の手元に残るお金を増やし直売所などでの販売もできるように支援に取り組んでいます

一般的な農家と違ういくつもの取り組みを固定概念に囚われず、掛け合わせることで「食える」「稼げる」「価値がある」の新3Kを生み出している南谷農園。次世代の農家を増やすため、そして農業に興味を持ってもらうための戦略的な仕掛けは架け橋となって着実に築かれて行っています。ぶどうの購入については、HP問い合わせフォームまたはカフェまで。カフェの営業日はSNSより発信しています。ぜひ訪れてみてくださいね。

LINK UP  南谷雄大さん《朝来市》

■南谷農園 / Sticks Coffee【朝来市】
[所] 朝来市山東町金浦644−1  [休]不定休
[時]平日10時〜17時、土日祝9時〜17時  [問] 079-676-3600
[HP] merryhillsmarket.com
[Instagram] @sticks_coffee                      
PICKUP