但馬STYLE VOL.44 豊岡の鞄工房 D.L.P.《豊岡市》


日本でも有数の鞄の産地・兵庫県豊岡市。ここに新たな風を吹き込んでいるのが鞄工房「D . L . P .」です。代表の岡森正明さんは、令和4年から但馬地方の特産品である「豊岡の鞄産業」と「但馬牛(たじまうし)」をコラボさせた「Tajima Cowhide(タジマカウハイド)」の製造に取り組んでいます。

同シリーズ名は「但馬牛革」を意味します。地元の鞄産業でも今まで実現が難しかった試みでしたが、地域資源を活用した新しい生産システムにより商品化できました。

―日本と世界が認めた「但馬牛」との関わり

(画像:「D.L.P.」の工房風景。職人が「Tajima Cowhide」商品の縫製を行っている)

「但馬牛」とは、兵庫県但馬地域が誇る和牛のこと。松阪牛や神戸牛など全国の黒毛和牛のルーツとされており、その血統の継承は、100年以上も前から人の手で厳重に管理されてきました。伝統的な飼育システムは、平成31年2月に「日本農業遺産」、令和5年7月には「世界農業遺産」として認められています。

地元の名牛「但馬牛」の原皮を使用した革製品「Tajima Cowhide(タジマカウハイド)」を作る「D . L . P .」は、主に革製品のバッグや小物を製造販売している鞄工房です。同工房では、これまで公益社団法人兵庫県物産協会が選定している優れた商品「五つ星ひょうご」に認定された、手染めのムラが美しい「パティーヌ」や「撥水ヌバックレザー ボディーバッグ」などを販売。職人仲間とシンプルで丁寧な製品作りを心がけてきました。

今回、オリジナル商品として売り出した「Tajima Cowhide」は一体どんな思いのもと、開発されたのでしょうか。

―どこもやらなかった生産システムに挑戦

岡森さんが「『但馬牛』の原皮を使用した革製品を作ろう」と決めたのは、コロナ禍の影響で、鞄産業自体も大きな打撃を受けていた時期です。生き残りをかけ、自社のオリジナル商品の強化を考えていた頃に、思い浮かんだのが但馬の2大産業である「但馬牛」と「豊岡の鞄産業」のコラボ企画でした。

「『やるならば誰も挑戦したことがないことを』をコンセプトに始めました。しかしこれまで、純粋な『但馬牛』の原皮だけを取り扱う革問屋(※1)も、その皮を加工しているタンナー(※2)もなく、自分たちで一から生産システムを作る必要があったんです」という岡森さん。「但馬牛を革として入手するまでが一番大変でした」とも話します。

なぜ大変なのか。そもそもバッグをはじめ革製品の製造メーカーは、革問屋やタンナーから革を仕入れて生産します。発注の際には、その革について色・厚み・柔軟性・型押しなどの仕上げの指定をすることはあっても、基本的に原皮の指定まですることはなかったのです。また、生産できる環境を整えようとすると、当然、管理・物流・生産性のコストもかかってきます。

「それでも何らかの方法で地元産の但馬牛の皮が手に入れば、これまでにない地元の特産品ができるのではないか?各施設にとっては新しい事業となりますし、取り組みを通じて但馬牛のPRも可能になる。持続的なシステムは、姫路のタンナーや豊岡の鞄生産者のためにも貢献できるのでは?など様々な可能性があると思いました」という岡森さん。

普段関わりのない地元の畜産業界に訪問し、話を聞いたり、「但馬牛」の関連施設や団体に企画の趣旨を話したりと、模索しながらも交渉成立まで結び付けたそうです。

(※1)革問屋とは…オリジナルの革製品を作り在庫を持って販売する業者。またお客様の依頼でタンナーに生産してもらうこともある。
(※2)タンナーとは…原皮を仕入れ、クライアントからのオーダーの仕様で、鞣し、仕上げ加工を行い革へと仕上げる、いわゆる革のメーカーのこと。

―作ることがゴールではない 

(画像:「革のかばん  サーカスサーカス」の店内1。「Tajima Cowhide」の鞄と長財布)

オリジナル商品を生産するために、システムを構築した岡森さん。
”但馬食肉加工センターで分別管理した「但馬牛」の原皮を、姫路のタンナーに渡す。同施設で鞣しと染色加工を施してもらったものを、自社で裁断、縫製加工する”という工程は、呼びかけに承諾してくれた施設の協力のもと、少しづつ形にすることができました。

また同企画では、産業廃棄物として処分されていた但馬産但馬牛皮を活用していることから、「ひょうご産業SDGs推進宣言事業」「豊岡市環境経済事業」他複数の公的機関に認証されています。

売り上げの一部は「但馬牛」の畜産業界に寄付し、革はいずれ土の微生物によって分解されて自然に返るという利点もあることから、購入者自身も社会や自然環境に貢献できる有機的なシステムにもなっています。

「今後も作ることがゴールではなく持続可能な生産・販売システムを維持し、発展させていくことが目標なんです」と岡森さんは未来を見据えます。

―地域の人にとっても愛着の湧くものになるように

材料を入手するために生産システムから作るという困難がありながらも、地元の名牛の皮を使用した商品企画を実現させた岡森さん。ものづくりがしたいと思い立ち鞄の道に進み、平成27年に独立し今の工房を立ち上げました。

今後の展望について「最終的に生産システムの循環を通して『Tajima Cowhide』が地元の特産品になり、地域の人に愛される商品になればうれしいです。例えば地元の小中高生が『但馬牛』の牛革のペンケースを使っているのが当たり前になるとかですね」と語ります。

(画像:「革のかばん  サーカスサーカス」の店内2。「Tajima Cowhide」シリーズを手に取って間近で見れる)

令和6年現在、トートバッグ・ペンケース・ポーチなどを展開している「Tajima Cowhide」シリーズ。ボディーバッグは令和5年度「五つ星ひょうご」の選定商品に選ばれました。

「但馬牛」の原皮の供給量は毎月一定ではないため、生産分の材料が切れたらまた次の月まで注文待ちとなる限られた資源から作られているそう。外観・内装・持ち手など商品のこだわりについては「D.L.P.」公式HPにて確認できます。

商品の購入は、同HPサイトのほか、牛・ヤギ・象など様々な動物の革製品を扱う城崎温泉の「革のかばん  サーカスサーカス」、豊岡カバンストリート内にある「Flux-k(フラックス・ケイ)」、ビジネスから旅行まで様々な鞄を扱う鞄専門店「かばんのたなか」など、地元店舗を中心に販売しています。

商品との出会いを機に、但馬牛にも会いに行ってみてはいかがでしょうか。

LINK UP   豊岡の鞄工房D.L.P.

■豊岡の鞄工房D.L.P.
(HP)https://dlp-toyooka.jp/
(instagram)https://www.instagram.com/doka.leather.processing/
PICKUP