時は江戸時代まで遡り、新温泉町に動物たちも認める化け上手な狐がいました。これはその狐に起きたちょっとまぬけなお話です。
狐は、自分より上手に化けるものはいないと、かねがね自慢するだけあって、 時には一つ目小僧、時にはかわいい娘にと、たちまち化けて技を見せびらかしていました。
森の動物たちはそんな狐に、ぞっとさせられたり、悔しがったりしていましたが、 狐が森で一番の化け上手であることに異存はありませんでした。それなのに狐は、のろまな狸を化け仲間に加えることに不平を露わにしていました。
ある日、狐は狸に化け競べを申し込みました。
「狸くん、五月五日、菖蒲の日、お昼まえにぼくを訪ねてきてくれ」。
狸は約束の日、狐の家に行き、「狐さん、狐さん」と呼んだが返事がありません。
仕方なく戸を開けて家の中に入ってみると、机の上に出来立てのぼたもちが皿に盛られ、 ほかほかの湯気が立っていました。狸はおいしそうなぼたもちを見て、お腹をぐうと鳴らしました。
「狐さん、おるすに悪いけど、ぼたもちを一ついただくよ」と、言いながら狸がぼたもちを口に持っていこうとすると、「狸くん、無茶するなよ」とぼたもちが言いました。
「あれっ、しまった。狐さんが化けていたのか。負けた、負けた。狐さんにはとてもかなわん。でも今度は、ぼくの番だね」。
そして十日に蒲生峠で待っていてくれと狐と約束して帰っていきました。
―約束の日
約束の日がきて、狐が蒲生峠に行ってみると、因幡の殿様のお国人りで、 「エイホー、エイホー」 「下にぃー、下にぃー」 と、大層な行列がきます。
旅人に化けた狐が、 「いやぁー、見事見事」 と呼ばわりながら殿様のかごに近づくと、 「くせ者!」 「出会え、出会え、くせ者を逃すな!」 と口々に叫んで、武士たちが刀を抜いて切りかかります。
「あっ、狸くん、僕だ僕だ、危ないじゃないか」 と狐があわてたが、 「不届き者!」「たわけ!」と、武士たちがするどい太刀先で構わず狐の旅人に切りこみます。狐は飛び上がり、もんどりうちながら、命からがら薮に飛びこみ逃げ切りました。
狸はその様子を松の木の上で、 「狐さん、それは本物の大名行列だよ」 と気の毒そうに眺めていましたとさ。
―歴史の道百選
狐と狸が約束をした蒲生峠は、新温泉町と鳥取県をつなぐ標高 353mの峠です。南北朝時代からの歴史が残る峠で、歴史の道百選にも選ばれています。近辺には長慶天皇にまつわる逸話や遺物があります。また戦国期では豊臣秀吉により鳥取攻めの際に使用されました。
現在の蒲生峠では、かつて賑わいを見せた茶屋の痕跡が残っていたり、清水が湧き出ています。ルートの改修で石畳が敷かれたのは明治時代ごろで、当時の石畳の一部が現存しています。
江戸時代の地図のなかには「加茂」の文字をあてはめているものがあり、そのせいか地元では「カモウ」峠と呼ぶ人もいます。風情を感じる景色を楽しみながらゆったりと歩くことができ、ハイキングコースとして親しまれています。
LINK UP 蒲生峠
| ■蒲生峠 [所]兵庫県美方郡新温泉町 |












