但馬STYLE VOL.39 藤田 正嘉さん《香美町》


空気の中を伸びやかで心地の良い音の余韻が広がっていく 「マリンバ(木琴)」と「ヴィブラフォン(鉄琴)」。材質や音の違いはあるもののどちらも鍵盤打楽器の一種です。

2020年1月にドイツから兵庫県美方郡香美町へ移住されたという神奈川県茅ヶ崎市出身の藤田正嘉(まさよし)さんは、これら2種類の鍵盤打楽器の奏者であり、作曲家でもあります。

世界を舞台に創作活動を行っており、伝統的な作曲や演奏スタイルにとらわれることなく「プリペアド」という楽器の上に様々な物をのせて演奏する手法で、日々「ヴィブラフォン」の持つ可能性を探究しています。

―作家活動のはじまり

藤田さんが普段制作を行う香美町のアトリエは、木の温もりが暖かく部屋いっぱいに楽器が並びます。移住先の住民の方に偶然紹介してもらったそう。

幼少期からロックが好きで、学生時代にはバンドでドラムを担当するなど音楽が身近な存在だった藤田さん。

本格的に音楽家としての道を進み出したのは24歳のころ。
作ったデモテープがドイツの音楽レーベルに評価されたことがきっかけでした。

ジャケットデザインがお洒落な「Bird Ambience(バード・アンビエンス)」は様々なアーティストと異文化の刺激を受け出来たアルバムで、帰国前に集大成として作られた作品です。中に12曲のオリジナル作品が収録されています。

時にはジャズ、電子音楽、アンビエント(環境音楽)などの要素を取り入れることで霧や鳥、雷など壮大な「自然」をイメージした独自の世界観を纏った作品展開を行っています。

―好奇心が奏でる音色

藤田さんが専門としている「マリンバ」と「ヴィブラフォン」の共通点は、鍵盤打楽器であること、鍵盤を叩く「マレット」の種類を変えることで音色を調整する以外にも、低音から高音まで幅広い音域を表現できるという点があります。

「マレット」とは細長い柄の先に球体がついている棒状の道具のことです。球体部分の素材や、球体を覆う素材の巻き具合、中にあるゴムや木製の球芯の硬度具合で、奏でられる音が違ってきます。

「演奏の時は手首を使って叩く感じで、あまり力はいれないです」

お話の通り、藤田さんが静かに叩くと「マリンバ」の音盤から優しい音が鳴りました。叩く位置によって凛とした音からずっしりとこもったような音が出て、聴き比べているとワクワクしてきます。

反対に鍵盤が金属製の「ヴィブラフォン」は、鍵盤の下にあるモーターが動くため、繊細な音色が波のように空気中になびいていく感覚がありました。

藤田さんが創造する音楽は、このような「マレット」を使用した伝統的な演奏スタイルとは違った展開を見せます。

それが「プリペアド」手法を用いた演奏スタイルです。

―瞬間的に生まれる”音と遊ぶ、音を操る”

「プリペアド」とは楽器に物や素材を取り付けることで新たな音色や効果を生み出す演奏スタイルです。

同奏法は木琴と比べ、傷がつきにくい丈夫な「ヴィブラフォン」で行われ、道具も「マレット」だけでなくチェロやバイオリンに使用されるような弦楽器の弓を始め、タンバリンのようなもの、ギロなど様々。

「“いいな”と思った音は録音して“音の種”として保存しておきます。後で組み合わせて曲を作ったりするんです」

音の高さ順に並べられた音板(おんばん)※の上にビーズを置いて「マレット」で叩くと振動で揺れたビーズの音が合わさり、違う音を出すことができます。ビーズを除き、次に大きなアルミを乗せてみるとシャリシャリとした音に変わり、まるで音同士が呼応しているようです。

紡がれた”音の種”の重なりは、歌詞を聴きながら音楽を楽しむのとは違い、
純粋に音そのものを楽しみ、音をより身近に感じることを可能にしていきます。

「いい音楽ができて、聞き直してもやっぱりいいなと思えるものができたときは楽しいですね。お客さんは基本的に目を閉じたりボーっとしたりしてリラックスする感じで聴いてもらえることが多いです」と楽しそうに話す藤田さん。

新天地として母国・「日本」を選択したきっかけにはどのような思いがあったのでしょう。

(※)音板(おんばん)とは…音程、音高が調律された木片または、鉄片のこと。板の裏側を窪み状に削ることで音色の調整がされている。

―改めて日本に暮らす

渡独前のドイツ・ベルリンは、藤田さんが気になっていたアーティストや音楽レーベルが移ってきているタイミングだったといいます。

街にはお金がないながらも多くのアーティストが制作を行ったり暮らしていたりしている人達がたくさんいる場所でした。

約13年ほど暮らしたという同国は刺激的で楽しかった反面、いつしかお金を持った企業が参入しはじめ、街には新しい施設が建ち並ぶようになりました。

移住を考え出したのは、そのような変化に個人的に”違う街になってしまった”と感じたことや、お子さんも大きくなってきたことなど生活環境の変化があったためでした。

「『自然』をテーマにした作風が多いのに、暮らしているのは都市部であることに違和感もありましたし、これからの生活のことを考えた時、以前から日本の自然豊かなところに暮らせたらと思っていたんです

その際、奥さんの仕事をどうするかという問題もあり、移住を決めかねていましたが日本に『地域おこし協力隊』という制度があることを知った藤田さん。

同制度は地域おこしを通じてその土地の風土に触れ、住民と関わっていくこともできるため、奥さんにとっても今後長く暮らす場所のことを知るきっかけとなる仕事でした。

「いくつかの市町村に連絡を取る中で、出会ったのか香美町でした。海外にいる僕らに、初めからオンライン面談で対応してくれる場所の一つでした。妻にも親切に対応してくれ、色々と話を聞くことができました」

しばらくして同町から奥さんへ『地域おこし協力隊』の採用の連絡があり、行ったことがなかった土地ではあったものの、移住を決めました。

―地に根を張って、その中で音楽を作ること

異国の地での生活が長かったこともあり、「しっかり根を張って生活して、生活の一部として音楽を作って暮らす」ことに憧れがあった藤田さんは、移住先の香美町で創作活動だけでなく、家族でスキーや山菜採りを体験してみたり、地域の人と行事にも参加するようにしているそうです。

「イベント活動などを通して住む人が増えたらうれしいし、情報発信もできたら」と朗らかに笑う藤田さんは「しっかりここの生活を楽しんで、ここの人になりたい」と話します。

暮らして感じた地域の風土を音にして乗せる時、一体どのようなメロディーになるのか。
香美町で制作する楽曲がこれからも楽しみです。

LINK UP   藤田正嘉さん

■Masayoshi Fujita
(HP)https://masayoshifujita.com/
(Instagram)https://www.instagram.com/masayoshifujitavibraphone/
■ミュージックビデオ
「Tears of Unicorn」
   https://www.youtube.com/watch?v=U58uG8O0bYg

 「Thunder」全編香美町で撮影。
 https://www.youtube.com/watch?v=IvqjqrDRALs 
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