但馬STYLE VOL.34 本庄 弘和さん、裕子さん《香美町》


潮風が香るまち、兵庫県美方郡香美町香住区香住。香住駅から海に向かい歩くと、こうばしい香りが漂うベーカリーカフェにたどり着きました。町内唯一となるパン屋「CRUMB(クラム) bread & coffee」では、本庄弘和さんと裕子さんが今日も美味しいパンを焼き上げています。

―地元へUターン

オーナーの本庄弘和さんは同区出身。
「進学を機に大阪に出ましたが、当初は戻ってくるつもりはありませんでした。年齢とともに考え方が変わり、30歳になるタイミングでUターンしたんです」と本庄さん。きっかけとなったのは、妻の裕子さんと将来のことを考えたからでした。

「子育てや結婚を考えた時、香美町の豊かな自然や治安の良さという魅力に気づかされました」そう語る弘和さんと裕子さん。関西でパン職人をしていた裕子さんと共に、念願だったベーカリーカフェを2021年にオープンさせました。しかし、その道のりは一筋縄ではいきませんでした。

―香住のパン屋として

お店を構えたのは、以前本屋だった一角です。駅前ではあるものの人通りの少ない道であるため、ここで商売ができるの?と心配の声もありました。
「それでもこの場所に決められたのは、妻からの“香住に住むなら香住でやらないと意味がない”という強い後押しがあったからです。当時は町内に一軒もパン屋がありませんでしたが、香住にもパン好きはいるはず。それに、やっぱり地元を元気にしたかったんです」と弘和さんは言います。

くしくもオープン前から新型コロナウィルスが猛威を振るい、思うように準備ができないという影響もありました。しかし「逆に、夫婦でじっくりと今後を話し合える時間が取れました」と前向きです。テイクアウトを充実させ、外からでも商品を受け取りやすいように窓を大きく設計するなど、時世に合わせ計画から見直しました。とにかく早くオープンしたい気持ちでいっぱいだったと言います。

―顔が見える看板商品

「人生をかけてオープンする店なので、お店の顔になるような看板商品を作りたいと思いました」と裕子さん。国産小麦と地元食材にこだわり、ここだけでしか食べられないパンを作り出しています。中でもイチ押しは甘酒食パン。地元の酒蔵である「香住鶴」の酒粕を、甘酒に加工して仕込みました。「乳製品や卵を使っていない食パンなので、食に制限のある方でも安心して食べられるんですよ」。店名でもあるクラム(パンの中身のこと)はもっちりと柔らかで、後味にほのかに甘酒の甘みを感じます。店内のパンはどれも生鮮食品のような新鮮さが見て取れます。

弘和さんも「コーヒーも自慢なんですよ」と続けます。注文ごとにハンドドリップされるコーヒーは、「シングルオリジン」と呼ばれるコーヒー豆を使用しています。シングルオリジンは農園や生産者ごとに細かく分類されて販売されるコーヒーのこと。好みの味や香りを探せるだけでなく、生産者の顔が見えるコーヒーとしても近年注目を集めています。

2人は「お店をするということは、自分の考えが丸裸になるようなものだと思っています。ただぼんやりとお店に立つのは嫌でした。自分の手で作ってお客さんに手渡しするものだから、できるかぎりこだわりたかったんです」と、まっすぐ語ってくれました。

―分け隔てないコミュニティスペース

安心安全にこだわったメニューは評判と応援を呼び、開店当時から数多くのメディアで取り上げられました。オープン当初はあまりの忙しさに、待っているお客さんが目に入らないこともあったとか。「初めてのことでどう動いたら良いか分からないくらい目まぐるしかったんです」と弘和さんは恥ずかしそうに笑いました。

あと数ヶ月で一周年を迎える同店。次の課題は、カフェとしての店内飲食の充実です。「パン屋ならどの世代の人でも気軽に入れます。最近は近所に住んでいてもなかなか会えませんが、このお店で偶然再会されるお客さんもいらっしゃいますね」と弘和さん。大きな窓からは光が差し込み、店内を明るく輝かせています。「この雰囲気も楽しんでもらえるよう、これからはカップや皿を揃えていきたいね」。ひだまりのような店内には、そう話し合う2人の声が広がります。地域のコミュニティスペースとして、ベーカリーカフェ「CRUMB(クラム)」は地域に溶け込んでいます。

LINK UP 本庄 弘和さん、裕子さん

■CRUMB bread&coffee
[所]美方郡香美町香住区七日市398-1
[休]日、月曜
[時]9〜18時
[問]0796-20-8224
(FB)https://www.facebook.com/crumb.breadandcoffee/
(Instagram)https://www.instagram.com/crumb_bread.and.coffee/
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