兵庫県養父市新津で暮らす上垣幸子さんは、女性としては数少ない森林整備士です。約80%が森林である但馬で、どのような活動を行なっているのでしょうか。
―きっかけは「主人を助けたい」
以前は歯科助手や薬局事務として地域と関わっていた上垣さん。転機となったのは、夫である上垣秀和さんが自伐型林業をこころざし、それまで勤めていた森林組合から独立したことでした。
自伐型林業は“小さな林業”ともいわれる、持続的な森林経営スタイルです。初期投資が少なく少人数でも参入しやすいのが特徴で、地方創生の鍵としても期待されています。
「主人1人で山に入ることもありました。ですが、山の中で1人だと何かあっても助けることができないし、誰も何も分からず不安だったんです。私にも何かできないかと考え山に入ることにしました」と上垣さんは振り返りました。最初は「本当にできるのか」という、周囲の心配の声もあったといいます。しかし、本人の「やりたい」という気持ちは変わりませんでした。
―イキイキと伸び伸びと
「林業の仕事には、危険・汚い・きついという、いわゆる3Kのイメージがあると思います」と上垣さん。確かに体力的に大変なこともあったと振り返りますが、2年目となった今では一通りの作業をこなすことができるようになったとイキイキと答えてくれました。
「山に道を作るところから重機の運転、そして木材の流通まで。全て自分たちで行うんですよ」と上垣さん。師匠であり先輩でもある秀和さんも「自然の中の仕事なので本人も伸び伸びとしています。仕事を覚えてくれて心強いですね」と頼もしそうです。
―木を“寝かす”
山に入ってから流通まで工程は数ありますが、上垣さんが特に気に入っているのは木を“寝かす”作業です。
「“寝かす”とは木を伐採することを指します。伐採といっても山の木をすべて切るんじゃありません。必要な木を残しながら何十年という長いスパンで山を育て、そして次の世代に森林をつなげていく作業なんです。失敗すると倒す予定のなかった木まで巻き込んでしまうので、思った通りに倒れるとホッとします」
さらに「昼ごはんも格別ですよ」と付け加えます。
「基本的に外でお弁当を食べるので、現場ごとに景色が違って楽しいです。余裕があれば、伐採した余り木を使い簡単なテーブルを作ったりもしました。現場でホットサンドを作ったときは特に美味しく感じました」と上垣さん。準備は大変でしたけどね、と笑います。
―未来へ繋げたい 強い山々
大雨などで大規模な自然災害に見舞われる昨今。手入れされていない山は木が十分に根をはることができないため、深刻な土砂災害などを引き起こす可能性があります。
「養父市をはじめ、但馬には山を大事にしている方が多くいらっしゃいます。ですが高齢だったり地元にいなかったり、自分たちでは手入れが難しい場合も多いんです」と上垣さんは教えてくれました。
そのため重要になってくるのが、数本の木から山の手入れを行える自伐型林業です。夫の秀和さんが代表を務める自伐型林業グループ「但馬やまもり隊」も、山の持ち主の“山を大切にしたい”という気持ちに寄り添いながら、精力的に活動を行なっています。
「山が綺麗になったら、そこを流れる水が綺麗になります。その水が海へ流れ、また山に降り注ぎます。山に目を向けることは、良い循環につながるのではないでしょうか」と上垣さん。私たちの生活を守っている但馬の山々に、今一度目を向けてみてはいかがでしょうか。
LINK UP 上垣 幸子さん
■自伐型林業グループ 但馬やまもり隊(上垣林業) [所]養父市新津130 [問]079-660-3101 (Mail)tajimayamamori@gmail.com (HP)https://tajimayamamori.wixsite.com/home |