但馬CULTURE VOL.32 木質バイオマスエネルギーで元気な森づくり


兵庫県は県土の約7割を森が占めています。豊かな森は私たちの生活を支えてきましたが、近年手入れ不足や放置による山の荒廃が目立つようになりました。特にスギやヒノキといった人工林が有効に使われずに放置されている状況が続いています。そんな中、木に由来する再生可能なエネルギーとして『木質バイオマス』が注目を集めています。林業の収益性向上と経営の安定化を図る、新たな森づくりの現状を追いました。

― 資源循環型林業の構築

森は“緑の社会資本”とよばれ、二酸化炭素(CO2)の吸収や大気保全、土砂流出防止、林産物の生産など、私たちの生活を支えています。しかし昭和55年頃をピークに国産木材価格の低迷や生活環境の変化により、手入れ不足や放置による山の荒廃が目立つように。特にスギやヒノキといった人工林が放置されていました。兵庫県ではこういった資源を計画的に伐採・利用して収益を森林所有者に還元。さらに「植林・保育・伐採・利用」の林業生産サイクルが円滑に循環する、『資源循環型林業』の構築を目指しています。

従来、木材は建築の材料となる製材・合板または紙などに使われてきました。近年、これに加えて発電用の燃料として利用する『木質バイオマス』に注目が集まっています。木質バイオマスとは、木に由来する再生可能な資源のことで、be材とよばれる、根株や曲がり木・枝葉などの未利用材をチップ化したものを燃料に発電を行います。循環型社会や地球温暖化の防止にもつながると期待され、さまざまな取り組みが行われています。

― 朝来市からはじまる「兵庫モデル」

兵庫県内には平成24年に国で始まったFIT制度(再生可能エネルギー固定価格買取制度)を活用した木質バイオマス発電が複数整備されています。その中のひとつ朝来市においては、林業の再生や地域経済の活性化、再生可能エネルギーの普及・拡大を目的として、未利用木材の搬出・be材製造から発電までの一連の工程を一体で行う官民協働の木質バイオマス事業が進められてきました。

その具体的な取り組みとして発電用燃料を20年間固定価格で取引することなどによって、森林所有者から発電事業者まですべての関係者が利益を共有できる社会『兵庫モデル』の構築を目指しています。

― 木の駅「森のステーション美方」

香美町では昭和63年から木材チップ工場が稼働しており、紙の原料をメインに加工・販売していました。外材の輸入により国内需要が減ってくる中、FIT制度が制定され燃料用チップ販売への移行を計画。建物と施設の整備を行い、平成27年に「木質バイオマスセンター」として新たに稼働をスタートしています。

また、地域の森への関心を深めるために、木の駅プロジェクト『森のステーション美方』の実行委員会を立ち上げてセンター内に事務局を設置しました。平成28年6月より“軽トラとチェーンソーで晩酌を”を合言葉にして、林地残材や間伐材を集めてグリーンチケットとよばれる地域通貨へ交換できる取り組みを行っています。現在、登録している出荷者は約80名。農家が道の駅に農産物を出荷するように、森林所有者やボランティアが今まで山に捨てていた細くて短い木などを“木の駅”へ気軽に出荷して収入を得ることで、森林整備に関わっています。

― 豊岡市のバイオマスタウン構想

平成19年から森の資源を保全・再生、そして利活用することで循環型社会の実現や産業の活性化を目指す『バイオマスタウン構想』への取り組みを進めてきた豊岡市。その背景には、平成16年に起きた台風23号での経験があります。山に放置された間伐材の流出などにより大きな被害があった同市では、健全な森づくりと木材の地産地消の考えを進めてきました。

バイオマスタウン構想の一環として、北但東部森林組合では“山の緑を活用したまちづくり”の実現を目標に掲げ、豊岡市との協同事業で「木質ペレット」に注力しています。ペレットとは木材を細かく砕き圧縮して固めた小粒の固形燃料のこと。密度が高く水分量も低いことが特徴で、燃料の安定化が図れる優れものです。市内の施設でボイラー熱源として利用されていたり、また市内22ヶ所の幼小中学校ではストーブ熱源として使われています。地元の木を使っているため、この「触ることができる燃料」は自然学習の面でも良いと喜ばれています。災害のない健全な森づくりとともに、灯油や石油などの化学燃料に代わる次世代エネルギーを使ったまちづくりを未来へ築いていきます。

PICKUP