但馬CULTURE VOL.28 葛畑農村歌舞伎舞台


兵庫の尾根、氷ノ山のふもとに位置する養父市葛畑。この山に囲まれたのどかな集落に、国の重要有形民俗文化財でもある「農村歌舞伎舞台」はあります。古来より住民の生活に寄り添ってきた、茅葺き屋根の舞台の魅力をご紹介します。

― 文化財の多い葛畑地区

養父市葛畑から大野峠を越えて香美町村岡区を結ぶルートは、古くから山陰の幹線として交通を支えていました。そういった背景もあり、葛畑は山あいの小さな集落にもかかわらず、文化財の数が非常に多い集落としても有名です。中でも、葛畑の農村歌舞伎は代表的なもの。村のシンボルである「農村歌舞伎舞台」は、国の重要有形民俗文化財として指定され、兵庫県下に330棟もあった農村舞台の頂点に位置づけられる重要な文化財です。

かつては各地で、雨乞い祈願や農閑期の娯楽として親しまれてきた農村歌舞伎。江戸末期に大阪で歌舞伎を学んだ藤田甚左衛門が帰郷の後、葛畑に「葛畑座」を結成しました。それから周辺の村々でも公演を行い、昭和9年に戦争の影響で途絶えるまで盛んに行われていたそうです。当時は紺屋(染め物屋)が3軒あり、上紺屋が衣装、中紺屋が舞台背景、下紺屋がメイクと、村芝居の域を超えるものでした。使用されていた衣装や小道具は、現在葛畑コミュニティセンターに一部保存されています。

― 歌舞伎に重要な7つの機構

洗い場が残る川筋の道を歩いていくと、棚田越しに茅葺屋根の佇まいが見えてきます。この歌舞伎舞台は天文13年(1554年)に荒御霊神社境内に建てられたお堂を、大阪の歌舞伎小屋で舞台建築を学んだ3人の地元大工が、明治25年に芝居小屋へと改修し作られました。昭和36年に取り壊しの話も出ましたが、専門家による調査の結果、歌舞伎舞台に大切な7つの機構を全て揃えた価値のある建物だと判明し、昭和43年に国の重要有形民俗文化財に指定されました。

その機構の1つが、葛畑農村歌舞伎舞台の特徴でもある「田楽がえし」と呼ばれる背景移動装置です。これは、10枚の襖を90度、180度回転させることで、背景を変えたり奥の遠見を見せることができます。また舞台の床下は奈落となっており、この中で4人が装置を回し、人力で舞台を回転させます。奈落は公演時には楽屋にもなりました。「奈落を見学すれば、運気が上がる」ともいわれています。他にも、舞台の背景を天井から吊るし上げ下げするブドウ棚や、スッポンと呼ばれる、役者を奈落から舞台に上げるせり上がりロの他、がんどう返し、二重合などがあります。

― 受け継がれる農村歌舞伎

昭和39年・41年の公演を経て、37年ぶりの復活公演が行われた平成15年には、「せきのみや子ども歌舞伎クラブ」が発足しました。そして次世代を担う歌舞伎役者を育成するため、同年から子どもたちによる農村歌舞伎講座と公演を毎年行っています。農村歌舞伎への思いは、但馬の子どもたちに受け継がれています。

「この舞台は使ってこそ価値がある」。葛畑座の座長も務める、区長の西村さんはそう話します。「こういう舞台でやりたかった」と絶賛するプロの役者も多く、公演に携わった人々は“文化財で歌舞伎をする”ことにより、プライドや優越感、それに自信が生まれてくるそうです。凛として佇む農村歌舞伎舞台。芝居に歓声を上げる往時の様子を思い起こしながら、貴重な文化財にふれてみてはいかがでしょうか。

LINK UP 葛畑農村歌舞伎舞台

■葛畑農村歌舞伎舞台
[所]兵庫県養父市葛畑字村中979
[問]伝承会事務局(養父市関宮地域局まちづくり係)
079-667-2331

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