但馬では多くの伝承や祭りが伝わり、各地で愛されてきました。その珍しい作法から、一部の祭りは奇祭と呼ばれ注目を集めています。では但馬各地で伝わる、その奇祭の由来はご存知でしょうか。
― 豊岡市日高町松岡の「御柱祭(ばば焼き)」
春まっさかりの四月十四日。豊岡市日高町にある十二所神社前の円山川河川敷で、「御柱(おとう)祭」が開催されます。俗に「ばば焼き」とも呼ばれるこの祭りには、悲しい由来がありました。今から七百年以上も昔、豊岡市高屋に流刑になった雅成親王を慕う、妃の幸姫がおりました。幸姫は王子の後を追って、京の都から日高までたどり着きますが、途中高屋までの道を老婆に尋ねると、実際は三里(12km)にも満たない道なのに、二十日はかかると嘘をつかれてしまいます。嘘を信じて絶望した幸姫は、生まれたばかりの王子を寝かせ「死後、南風となって高屋に達しましょう」と言い残し円山川に身を投げました。その夜、強い南風と大雨が降り洪水に。話を聞いた村人は、嘘をついた老婆を火あぶりにし、幸姫の霊を慰めたそうです。
現在は竹とわらで「お鉢」とよばれる鉢形の土台を作り、その上部に葉付きの生松を立て、老婆に見立てたわら人形をくくりつけ、「御柱松」を作ります。その「御柱松」は、4.5mにもなり、円山川河川敷に立ち上げられます。そして十四日の夕方に火がつけられ、その火は十二所神社に奉納されます。現在では五穀豊穣と厄除けを願う行事ですが、この日はなぜか幸姫の言葉通り、南風が強く吹くそうです。
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■松岡御柱祭 毎年4月14日開催 [所]兵庫県豊岡市日高町松岡(十二所神社前) [問]日高神鍋観光協会 0796-45-0800 |
― 養父市大屋町宮本の「まいそう祭り」
一月十四日の夜。大屋町宮本の御井(みい)神社の境内には、「まいそう祭り」のために、氏子をはじめ大勢の見学客が集まります。「まいそう祭り」は「マーイソーナイ」という掛け声が由来になっていますが、その語源は神代の昔までさかのぼります。この地が泥海であった昔、神が三艘の船に乗って見回りをしていたところ、二艘の行方がわからなくなってしまいました。そのうち一艘は大屋町の隣、養父市建屋の船谷で見つかりましたが、あと一艘がどうしても見つからないので、「マーイソーナイ」(もう一艘ない)と呼びかけならが、夜を徹して探したことが、「まいそう祭り」となったといわれています。
祭りは本殿で神事が行われたあと、参詣者がそれぞれ松明を持ち、円陣を組みます。鬼役を演じるのは厄年の三人の男性。太鼓の合図に合わせて、右手に木箱、左手に木鉾を持った一番鬼が拝殿から飛び出します。参詣者は「マーイソーナイ」とはやしたて、燃え盛る松明を、鬼が持つ木箱に激しく叩きつけます。二番鬼、三番鬼の順で続き、円陣を三周したあと、吠え声を上げて本殿にそれぞれ消えます。
燃えさかる松明の炎で鬼を追い払う、珍しい火のまつりです。
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■まいそう祭り 毎年1月14日開催 [所]兵庫県養父市大屋町宮本481 [問]やぶ市観光協会 079-663-1515 |
― 朝来市山東町粟鹿の「瓶子渡祭(サアゴザレ)」
朝来市山東町粟鹿(あわが)は古くから栄えた土地で、その中心の粟鹿神社は、出石神社・養父神社・絹巻神社・小田井縣神社と合わせて但馬五社に数えられます。北近畿自動車道建設の際の発掘調査では、奈良時代のものと思われる大きな建物の跡や土器・木簡などが多数出土し、但馬国一の宮と呼ぶにふさわしい勢力をもっていたことが立証されました。そんな粟鹿神社で十月十七日に行われる秋の例大祭では、「サアゴザレ」とも言われる、古式ゆかしい「瓶子渡」の儀式が行われます。
麻の裃を着た四人の当人の内二人が階上と階下に分かれ、御陵柿・茄子・稲のひこばえなどを盛った民俗芸能を「サアゴザレ」「サア」といいながら、左右交互に差し違えます。意気が合った時に三方を階上の物に渡し、殿内に納めて儀式が終わります。
他にも粟鹿神社には、勅使門に彫刻された鳳凰が鳴くので、そのうち一羽の首を落としたなど、ユニークな七不思議が伝わっています。
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■瓶子渡祭 毎年10月17日開催 [所]兵庫県朝来市山東町粟鹿 粟鹿神社 [問]粟鹿神社 079-676-2465 |
― 香美町香住区御崎の「百手の儀式」
全国に残る平家落人伝説。但馬にも伝説の地は数多く残されていますが、その中でも香美町香住区御崎に伝わる平家伝説は特に有名です。壇ノ浦の戦いに敗れた平家の武将たちは、日本海に出てから強いシケにあい、但馬の御崎に押し流されてしまいました。一行が沖にさしかかると、山中から一筋の煙が見えたので、煙を頼りに崖をよじ登っていくと、小さな庵に修験者が修行をしていました。そこで食べ物をもらい、一行は飢えをしのいだといいます。
当日、地区公民館に集まった御崎の人々は、近くで取ってきた竹で弓と矢を作ります。午後四時になると裃姿の人々が、平家の蝶の紋が入った赤いのぼり旗を持ち「ひかえー、ひかえー、わきによれー」と、氏神である平内神社へ続く坂道を歩いていきます。境内の大イチョウに的をとりつけ、門脇・伊賀・矢引の武士に扮した三人の少年が、的をめがけて百一本の矢を射ます。一族の再興と武芸の鍛錬を願って始まったこの儀式は、毎年一月二十八日に平内神社で行われ、今でも平家の思いを伝えます。
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■百手の儀式 毎年1月28日 [所]兵庫県美方郡香美町香住区餘部(御崎)平内神社 [問]香美町香住観光協会 0796-36-1234 |
― 新温泉町竹田の「お茗荷祭り」
毎年二月十一日、早朝五時に始まる「お茗荷(みょうが)祭り」。この祭りが代々伝わる面沼(めぬま)神社の境内には、「めぬ池」と呼ばれる小池があります。その中の小さな島に、「お茗荷祭り」で神に捧げられるミョウガができます。ミョウガは通常春から夏にかけて芽を出す植物でが、なぜこんな雪が積もる真冬にミョウガが育つのかは、未だにわかっていません。そのため、但馬の七不思議のひとつにあげられています。
ミョウガの芽の形・大きさ・光沢・色などで、その年の吉凶・景気を参拝者自らが占います。芽がまっすぐ伸びていると豊作、曲がっていると日照り、上部に光沢があれば早稲、下部に光沢があれば晩稲がよいとされ、その占いは不思議と当たるそうです。現在は関係者のみの神事ですが、以前は他の村からの来客もあったとか。その参拝時にとなえられた「命賀(みょうが)めでたや、富貴(ふうき)はんじょう」という言葉は、健康と富を授かりますようにという意味だそうです。厳しい寒さの中、不思議なミョウガの占いが、今もひっそりと行われています。
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■お茗荷祭り [所]兵庫県美方郡新温泉町竹田 面沼神社 [問]湯村温泉観光協会 0796-92-2000 |