但馬CULTURE VOL.11 浜坂のレコード針


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1本ずつ手仕事で組み上げる「浜坂のレコード針」。新温泉町・浜坂の伝統産業であった「浜坂みすや針」で培われた伝統の技が今でも受け継がれています。集中力と根気、熟練した職人の手仕事で作られた精巧なレコード針が、味わいのある音を奏でます。

― 浜坂の伝統産業「縫い針」が原点

 レコードから奏でられる心地よいメロディー。デジタルな音楽にはない、深みのあるレコードの音が最近若者の間でも見直され、アナログレコードの人気が再燃しています。「レコードで音楽を聴くよさは、生音に近いこと。デジタルでは抜け落ちる音も再生できます。特に低音の響きが違いますね」とは、新温泉町でレコード針の製造を手がける日本精機宝石工業株式会社の仲川社長。一貫生産では国内唯一のメーカーで、年間約20万本ものレコード針を製造しています。

 創業は明治6年(1873)。地元・浜坂の伝統産業である「縫い針」の工場としてスタートしたのが原点。その後、蓄音機の需要が増えるにつれて蓄音機用鋼鉄針の製造へと転換し、時代の趨勢とともに、宝石レコード針の生産へと移り変わっていきました。現在は約2千種類のモデルに対応していて、欧米を中心に海外からの注文が95%を占めるそうです。

― 針の穴を通す繊細な技術

 製造現場を案内してもらうと、そこは「針の穴を通す」ほどの正確さと集中力を要する光景が広がっていました。レコード針には最大で45個もの細かなパーツがあり、その1本1本を職人による手作業で組み上げています。まさに神業とも言える細かな作業を目の前にすると、思わず息を呑んでしまいます。

 レコード針の針先は、わずか直径0.25ミリ、高さ0.6ミリのダイヤモンドのチップ。素人目には黒い粉にしか見えません。その小さな小さなチップの方向を、肉眼で瞬時に見分けてカンチレバーに埋め込んでいく職人さん。思わず「見えてるんですよね」と、当たり前の質問をしてしまうほど繊細な作業が黙々と続けられていきます。

 完成したレコード針は、実際にレコードプレーヤーにかけて検査が行われます。周波数や出力、音の響きを約5秒ほどで検査。使用されるレコードは、クラシックかと思いきや「演歌」。演歌のこぶしが音質を調べるのに最適だそうです。こうした地道な作業によって、味わいのある音色が生まれていきます。「午前中までに注文をもらえれば、その日に仕上げることも可能ですよ」と話す、仲川社長。一貫生産の強みを活かしたスピード力も会社の強みです。

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― 徹底した手仕事、甦るレコード針

 日本精機宝石工業株式会社では、「壊れた針を直して欲しい」というユーザーのニーズに応えるべく、レコード針の修理サービスを平成20年( 2008)より始めました。レコード針の修理は失敗が許されず、間違えれば、その針はもう使うことができなくなる重大な仕事。あらゆる角度から検証を行って、慎重に針を甦らせていきます。

 トータルな知識と経験が必要とされ、この修理を行えるのは40年以上のキャリアを誇る森田さんだけ。修理を依頼する人にとってそれぞれに思い入れのある針だけに、とても重圧がかかる仕事と話します。それでもお客さんからお礼の手紙をもらうと、疲れも吹き飛ぶと話す森田さん。現在は後継者を育成するべく、後進の指導にも力を入れられており、伝統の技術が次世代に継承されています。職人さんたちが小さな1本のレコード針に込めたきめ細かな技術。まさに日本のモノづくりの根幹を垣間見るようでした。

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■日本精機宝石工業株式会社
[所]兵庫県新温泉町芦屋100(本社) [問]0796-82-3171
(HP)https://www.jico.co.jp (直販サイト)http://shop.jico.co.jp

 

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