但馬CULTURE VOL.9 但馬牛のルーツを探る


世界で唯一、純血種を守る名和牛「但馬牛」。150年の長きに渡って受け継がれてきた但馬牛の血統の歴史には、幾度もの困難を乗り越え、生活の全てを捧げた先人たちがいました。但馬の風土と気質が育てた世界に誇る「但馬牛」。そのルーツを探ります。

― 記録に残る「但馬牛」

 但馬に牛の記述が登場するのは古事記にさかのぼります。但馬開拓の祖とされる天日槍(あめのひぼこ)が朝鮮から牛を伴って日本に渡来し、但馬の出石に住みついたと記されています。また、続日本書紀には、「但馬牛は、耕運、ばん用(車ひき)、食用に適する」とあり、「国牛十図」にも但馬牛の優れた体型、特徴、性質が記されるなど、古くから優秀牛としてその名が残っています。

 さらに天正11年、天下統一を目指す羽柴(豊臣)秀吉が大坂城を築城する際にも役牛として活躍しました。秀吉は但馬牛の優れた能力に「1日士分(武士の身分)」を与えて誉め讃えたと言われています。

― 但馬牛を創った男「前田周助」

 現在の但馬牛の歴史を語る上で、なくてはならない人がいます。「牛飼い坊主」といわれたほどの牛好きであった、香美町小代区に生まれた前田周助(1797~1872)です。牛の取引と小代牛の宣伝のために、わざわざ大阪の市場まで牛を連れて出かけたという逸話が残る人物。彼の人生はまさに但馬牛とともに生きたと言えます。

 周助は「蔓(つる)牛」の開発に一生をかけました。「蔓」とは、他地域との交流を避けた「閉鎖育種」の方法で生み出された、発育・資質・繁殖性の優秀な牛の血統のことを言い、その系統牛を「蔓牛」と呼びます。但馬牛の優れた特質は、長年に渡り、他との交配をさけ、改良に改良を重ねて受け継がれた優良な血統から生み出されました。

 「蔓牛」を創り出すことで、安定的に優秀な子牛が生産することができます。周助は系統牛になりそうな牛がいると聞けば、東へ西へと駆け回りました。そのためには私財を投げ打って、牛を買い求める毎日。そしてついに100年に一度の雌牛を手に入れました。飼料の選定から一切の手入れ、特に繁殖には多年の研究と経験の全てを注ぎました。こうして周助の生み出した牛は「周助蔓」と言われ、現在の但馬牛の代表的な蔓のひとつ「あつた蔓」の素となりました。

― 伝説の但馬牛「田尻号」

  昭和14年に香美町小代区に生まれた伝説の雄牛「田尻号」。全国和牛登録協会の資料によると、全国の黒毛和種繁殖雌牛の99.9%が、「田尻号」の血統に繋がることが分かりました。名だたる高級黒毛和牛の母牛の大部分が、この「田尻号」をルーツに持っているのです。

 明治に入り西洋文化の影響で肉食が盛んになると、日本の小型の牛を改良するため、体格のよい外国の牛と交配させることが進められました。但馬でも例外ではなく、外国牛との交配が行われましたが、肉質の低下を招き、優良な血統牛を失いかねない危機におちいります。

 第二次世界大戦後、但馬牛の純牛種を守ろうと、新しい血統作りが始まりました。ここで注目されたのが「周助蔓」。険しい山々と深い谷あいにあり、隣村との行き来が困難な小代には、外国牛との交配を免れた但馬牛が奇跡的に生き残っていました。中でも田尻松蔵が丹精込めて育て上げた「田尻号」は、生まれて半年で美方郡の種オス牛候補として認められた名牛。特に遺伝力の強さは他の雄牛の中でも群を抜いていたと言います。

 但馬の山間部では家の玄関の横に牛小屋があり、昔から家族同様に牛が育てられてきました。松蔵も「田尻号」を我が子のように可愛がり、毎日運動と手入れを欠かさなかったそうです。そのおかげでほとんど病気をすることもなく、昭和29年まで種牛として活躍しました。昭和30年には長年の功績を讃えられ、黄綬褒賞を受賞しています。

― 150年守られてきた但馬牛の血統

 但馬牛は世界で唯一、他地域の牛との交配を避けて純血を守ってきました。神戸牛や松阪牛、近江牛を始め、有名な黒毛和牛の素牛として知られています。他県の優秀な牛の種を買い付けて、交配することもありません。

 但馬ビーフの特長である美しい鮮紅色にきめの細かい霜降り。霜降りの脂肪分が適度に肉全体にとけだし、やわらかく舌触り良い但馬牛独特のまろやかさが醸し出されます。こうした但馬牛の原点は、前田周助、田尻松蔵と言った先人たちの努力の結晶と呼べます。

 田尻号の功績を讃える顕彰碑には、『この名牛が生まれたのは偶然ではない。自然的な要因と人為的な条件が融合しなければ叶わなかった』と刻まれています。「山でつくり草で飼う」とされる但馬独特の風土、そして、1頭1頭に愛情をかけて育てる但馬人の気質が、名和牛「但馬牛」を育んだと言えます。

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■香美町小代観光協会
[所]兵庫県美方郡香美町小代区神水739-1 [問]0796-97-2250(9〜17時)
(HP)http://www.ojirokanko.com/

 

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