茅葺職人の三木宏祐さん(2)
前回から引き続き、茅葺職人の三木宏祐さん(1982年生まれ)のご紹介です。2009年4月、三木さんは導かれるようにして「美山茅葺株式会社」に入社します。
5年の年季明けで一人前とされる職人の世界。三木さんは着実に仕事を覚え、親方から仕事を任せてもらえるようになります。伊勢神宮の式年遷宮に立ちあう機会を得たり、中国に茅葺き指導に出張したり。一つの仕事が終わったらまた次の現場へ(※)。
世界や日本の現場を転々とする中で、三木さんは改めて「茅葺き」について考えます。「究極の目標は…“人が本来秘めている感覚を呼び覚ます” こと。自然の呼吸やリズムに合わせて生きていく感覚は、本当はみんなの中にあった、今ちょっと鈍って眠ってしまっているだけ」
「この世界は変えていける。これからの時代は、自分こそが創る。笑顔の世界にするか、難しい顔の世界にするか、悲しい顔の世界にするか、その決定権は僕ら一人ひとりが持っている。みんなヒーローなんだ。この感覚は誰の中にも潜んでいる。生きることそのものが“責任を果たす”こと。生まれてきたからには、ホームスタジアムであるこの地球と自分の魂を『来たときよりも美しく』したい。それが最大のテーマ。形のあるもの・ないものを、次世代に良い形でバトンタッチしていくためには、この感覚を呼び覚ますことが必要不可欠や」
「僕はこの感覚を、親方や先輩たちから茅葺きを通じて伝えてもらった。次は僕が伝える番。茅葺きがきっかけになって、眠っている感覚が1人でも多くの人の中で目覚めることになればいい」
三木さんの頭の中には新しいビジョンが生まれています。「“今の時代に合う茅葺き”をテーマに、形やデザインや形式や手順などの既存の『枠』を外していけば、現代の住宅として求められるものもできるはず。最も先進的で最新のものは、どこか懐かしさを漂わせていると思う。懐かしさを漂わせるものをつくる人でありたい。そうなるための引き出しを自分に身につけたい」
「播州生まれで祭りが大好きやから、祭りの熱気みたいに、アホほどのエネルギーで真面目に未来を考えて“それ”に向かうだけ。笑って。大切な存在のために。もうこうなったら止まりません。この熱は伝染します、茅葺きに興味のある方はご注意ください(笑)。せっかくいいただいたこの“いのち”、余すことなく存分に使わせてもらって、おもろい世にしていきたい。」 三木さん、これからますます注目です!
(※)但馬で三木さんが関わった茅葺は、豊岡市出石町にある「足軽長屋」、養父市葛畑にある「農村歌舞伎舞台」、養父市八鹿町の長寿の郷にある「ふるさと庵」など多数あります。最近では朝来市多々良木にある「旧井上家住宅」の茅葺き保存活動にも関わっています。この保存活動の中心人物は、以前ご紹介した竹田劇場@朝来市の松本智翔さんです。