但馬STYLE VOL.7 橋本 麻希さん《豊岡市》


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 2014年春、城崎温泉にオープンした「城崎国際アートセンター」。全国でも珍しい舞台芸術を主としたアーティストの滞在型創作活動の拠点施設です。ここでアート・コーディネーターとして働く橋本麻希さんは、学生時代に経験した様々な活動を通して、芸術が地域にもたらす大きな可能性を感じていました。但馬に新しい変化をもたらす、芸術と地域をつなぐ橋本さんのお話です。

― 芸術の可能性を感じる出来事

 大阪府吹田市生まれの橋本さんが芸術と関わりを持ったのは3歳の頃。クラシックピアノを習い始めたことがきっかけでした。今でも即興演奏を楽しむ演奏者。子供の頃から音楽とふれあう内に、音楽が人間に与える影響を多角的に学びたいと思うようになりました。高校卒業後は神戸大学発達科学部の人間行動・表現学科 音楽表現論コースに進学。主に音楽療法について学びましたが、そこで一つの変化が訪れます。

 「音楽療法による治療の効果を研究するよりも、芸術が社会にもたらす影響を勉強したいと考えるようになりました。それは知的障害を持った人々と関わったことがきっかけです。彼らの独創的な才能にふれるうちに、私自身とても感化されました。芸術には私たちの凝り固まった価値観を打ち壊し、新しい発想や豊かな心を育む力があると思ったんです。」

― 「芸術」は地域の文化を豊かにする

 大学院では芸術活動を支援する「アートマネジメント」を専攻した橋本さん。中でも地域に根ざした芸術活動を行う「コミュニティアート」の分野に興味を持つようになります。瀬戸内国際芸術祭をはじめ、国内でも大規模な国際美術展覧会のボランティアスタッフとして活躍。実際の現場で、運営や支援の方法を学びました。

 「大きな芸術祭に関われたことは大切な経験となりましたが、規模が大きいことで見えてくるものもありました。それは主役の一人である地域の人の関わりが薄いことです。もっとコミュニティアートを追求したいと思いました。」

 そんな時、橋本さんが出会ったのが大分県別府市で3年に1回開催されている市民主導型の芸術祭「別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」」の調査・研究でした。「混浴温泉世界は市民主導型で、アーティストや観光客が一体となり、人と人とのつながりが見える芸術祭でした。芸術には地域の文化を豊かにする可能性があると確信した出来事でしたね。」と、橋本さんは話します。

 そして、大学院の卒業を控え、芸術に関わる仕事を探していたところ、城崎国際アートセンター開設準備に関わる職員募集の掲示板を目にしました。

― 「城崎温泉」と「世界」が直結する

 豊岡市にIターンするとは、夢にも思っていなかったという橋本さん。一番興味を引かれたのは、芸術を通して小さな地方都市が世界に新しい文化を発信するという壮大な計画だったと言います。城崎国際アートセンターの目的は、全国・世界のアーティストを一定期間滞在させて、芸術創造活動の環境を提供すること。「アーティストのいるまち」として、地域の魅力を世界へ発信することを目指しています。

 「城崎で誕生した作品が世界の舞台で上演されれば、初演は城崎とパンフレットにクレジットされます。人口4000人ほどの城崎温泉が世界と直結する。これって芸術でしかありえないことだと思うんです。」と、橋本さん。

 また、アートセンターが美術作家向けではなく、全国的にも珍しい舞台芸術(パフォーミング・アーツ)を主体とした施設だったことも決め手になったと話します。

 「神戸でコンテンポラリーダンスの制作現場に関わることで、舞台芸術の醍醐味にふれることができました。舞台芸術は時間芸術とも言われ、演者とお客さんが同じ空間を共有できることが魅力。地域の方がつながりを持ちやすい芸術だと思うんです。」

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― 今までにはなかった新しい風が吹く

 2014年4月のオープンから約1年半、橋本さんは「アート・コーディネーター」として、滞在アーティストの受け入れやアーティストと地元住民をつなぐ仕事に汗を流しています。開設準備中には需要はあるのか、海外の一流アーティストが日本の地方都市に来てくれるのかという不安もあったそうです。

 しかし、その思いは取り越し苦労に終わりました。その規模の大きさを聞きつけて、国内外の一流アーティストから予想を超える問い合わせや利用があったそうです。

 「舞台芸術の滞在型創作活動の拠点としては日本最大級と言うこともありますが、私は城崎温泉のまち並みも大事な要素だと思っています。特に海外のアーティストにとって、温泉街の伝統的な風情は創作活動に大きなインスピレーションを与えているようです。外湯や散策と言う城崎独特の温泉文化も、地元の人とのふれあいが多く、いいリフレッシュになるそうです。」

 今後の目標を聞くと、「もっと市民の方に一流のアーティストとふれあえる場があることを知ってもらいたい」と橋本さん。アーティストとはいい意味で変わった人。その特異な存在がまちにいることで、住民が今まで考えもしなかった見方に気づき、異なる視点と出会えると言います。現在もワークショップへの参加や交流会など、滞在アーティストと市民をつなぐ仕事をしていますが、その認知度はまだまだ低いそうです。

 「私はこれまでの経験を通して、芸術が人の心や感性を豊かにすることを実感してきました。都会ならまだしも、但馬で一流の芸術にふれられることは本当に幸運なことです。特に子供たちにとって将来の選択肢が増え、今まで閉ざされていた可能性が広がることは大きな意味があると思います。」

 市民が出演者となりダンス作品を創って上演する企画では、2歳から80代までの約70名が出演。舞台芸術を直にふれたことで感化され、舞台に立つ楽しさに気づき、次の出番を楽しみにする人もいるそうです。芸術が地域に新しい変化や豊かな気持ちを生み出す瞬間が、何よりのやりがいと話す橋本さん。その言葉からは但馬に「芸術」と言う大きな魅力が加わったことを感じさせてくれます。

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LINK UP 橋本 麻希

■城崎国際アートセンター
[所]兵庫県豊岡市城崎町湯島1062 [時]9〜22時[休]火曜[問]
0796-32-3888
(HP)http://kiac.jp
(FB)https://www.facebook.com/kinosaki.international.artcenter

 

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