但馬STYLE VOL.9 吉原 剛史さん《朝来市》


 2014年4月から朝来市の地域おこし協力隊として、天空の城として脚光を浴びている竹田地区へ着任した東京都出身の吉原剛史さん。16年間にも及ぶオーストラリアでの生活、元大手金融マン、世界60ヶ国以上をバイクで旅するなど、エピソードには事欠きません。そんな豪快な経歴の持ち主が「竹田」になぜやってきたのか、「地域」に目覚めたきっかけは?地域に根差した生業を通して地域の活性化を目指す、吉原さんのお話しです。

― 地域に根差した生業で地域を活性化

 昨年の4月から朝来市の地域おこし協力隊として着任した吉原剛史さん。天空の城として一躍有名になった竹田地区で、地元に根差した複数の生業「狩猟」「農業」「観光」「宿泊」「イベント」を通して、地域の活性化に汗を流しています。

 朝来市に来る前から「狩猟」をやろうと決めていた吉原さん。着任して早々に狩猟免許を取得しました。その理由は「自然・山林を自ら知り、生態系を整える」ということ。特に朝来は円山川と市川の源流の地でもあり、人間の営みが沿岸や近海の生態系にも影響を及ぼすと話します。「自然から恵みをいただく」だけではなく、生態系の一部として、「循環・持続可能な暮らし」を作り上げていく、そんな思いのもとに活動されています。

 さらに昨年は「地元産の米と食材を使ったおいしい朝ご飯で“朝来ファン”を増やそう」と、住民と地域おこし協力隊が連携して、食のイベント「あさごはんの会」を竹田で開催。吉原さんがとりまとめ役となり、当日は早朝にもかかわらず100名を超える参加者がありました。

 5つの生業を自らが実践することで、「朝来市への移住を考える人たちのモデルになりたい」と話す吉原さん。広域型経済社会ではなく、「地域型暮らし社会」の実現を目指しています。

 人なつっこい笑顔で、地域にとけ込んでいる姿が印象的な吉原さんですが、その行動力あふれるバイタリティーは一体どこからくるのでしょうか。そこには世界を旅して出会った人々との素敵な出会いが影響していました。

― オーストラリアの多様性に感銘

 生まれも育ちも東京という吉原さんの転機が訪れたのは、大学1回生の時。大学には入ったものの自分が専攻する学問に違和感を感じていた折、同級生からワーキング・ホリデーに誘われたことがきっかけでした。それまで海外について何の興味もなかったそうですが、世界を見ることも経験と思い、オーストラリアに渡りました。

 始めは期間内で帰国する予定でしたが、オーストラリアの文化にすっかりはまってしまった吉原さん。現地の大学に入り直し、その後、IT資格を取得。そのスキルを生かすために、世界有数の大手金融会社に就職しました。永住権を得て、結局オーストラリアでの生活は16年に及びました。

 「オーストラリアにはまった理由は、オージースピリッツと呼ばれる多様性を受け入れる文化。移民の多い国なので、とにかく彼らはオーストラリアが好きならば、それでOK!国籍なんて関係ないんです。外国人の僕をすぐに受け入れてくれた心の広さにとても感銘を受けました。」

 海外の暮らしが長くなっても、常に日本人であることは忘れなかったという吉原さん。様々なライフスタイルを受け入れるオージー文化にふれる内、「右へならえ」の意識が強く、経済活動を追い求める傾向の日本に危機感を覚えるようになりました。

 そして、2010年に金融会社を退社。念願であった世界一周バイクの旅に出ることを決意します。4大陸のべ65ヶ国、3年半かかった旅で、日本への危機感に対する答えが見つかったという吉原さん。感動的な出会いを通して、「地域から日本を変えていきたい」という思いを強くします。

― 世界一周バイクの旅で「地域」に目覚める!

 吉原さんが「地域・コミュニティ」を意識するようになったのは、南米パラグアイでの出会い。原生林を切り開いた日系人の村での滞在が大きな影響を与えたといいます。

 「彼らは現地にとけ込んでいますが、決して日本を忘れていないんです。もしかしたら、日本人より日本文化を大切にしているかも知れません。地球の反対に暮らしながら、自分たちのルーツを基盤にした地域を築いています。そして、この地域で暮らす人は皆んな生き生きとして力強い。この出会いで故郷とは何かということを考えさせられました。人の幸せは帰属できる場所があることで決まる。愛着の持てるホームがあれば、人はどこでも生きていけるんです。」

 「旅は出会い」と話す吉原さん。世界一周の旅では他にも、現在の自分を作り上げる様々な出会いがありました。南米の最南端で一度会っただけのブラジル人ライダーは、事故で骨折していた吉原さんの身の上を気づかい、無償でマンションの一室を提供。ほぼ見ず知らずの外国人を、バイク好きという共通点だけで、家族のように世話してくれたといいます。また、道中を共にすることになったスウェーデン人の男性は、地元スカンジナビアを一緒に走る吉原さんを常に気づかってくれたそうです。

 「彼らは決して見返りを求めないんです。恩返しをしたいと申し出ると、今度は君が困っている人を助ければいいと言ってくれました。小さな思いやりや手助けが、回り回って社会全体を押し上げるという考え方なんです。こうした考え方にふれる内に、自分もホームである日本で地域の力になりたいと思うようになりました。」

 そして、2014年、たまたまインターネットを検索していたところ、朝来市が地域おこし協力隊を募集していることを発見。元々、歴史が好きだったこともあり、竹田城跡はブームになる前に訪れたことがあった場所でした。別名の「虎臥(とらふす)城」と、自分が寅年であることに縁を感じていたこともあり、天空の城ブームにわく竹田へ移住。こうして、新たな挑戦の毎日が始まりました。

― 先駆者として、先例になりたい

 「少しでも定住人口を増やすことが僕たちの恩返し。移住者が地域で自立できる先例にならなければいけません。これは地域おこし協力隊として、市や住民の皆さんの援助を受けている先駆者としての使命と思っています」と、語る吉原さん。今年は「狩猟」に重きを置いて、鹿肉の加工場を計画。地域の素材を活かした雇用の場づくりに奔走しています。

 「今、実践している地域型暮らし社会とは、幸福度をどう考えるかということ。地方で自然に身を置いて暮らすということは、都会に比べて年収が下がります。しかし、地域のつながりや自然の恵みを感じることができれば、幸福度は上がります。価値観を何に見出すかで、地方でも豊かな生活が送れるんです。こうしたライフスタイルが定着すれば、地域にももっと人が集まると思うんです。」外から来たこそ、朝来市には魅力ある本物の資源がたくさんあると言います。

 外から来たこそ、朝来市には魅力ある本物の資源がたくさんあると言います。今年4月には市内在住の20~40代の農業者、自営業者、新規起業者など約20名の仲間たちとともに、まちづくりグループ「あさごぜる」を立ち上げました。メンバーの約4割が移住者といい、各地域に6名いる協力隊員の情報交換の場ともなり、連携した活動も行えるようになりました。現在、移住定住者の支援がワンストップで対応できる場として、空き倉庫を改修し活動拠点を整備中。「朝来で暮らしてみたい」「朝来で起業してみたい」と思う人たちのために、シェアハウス・オフィスとしての活用が計画されています。

 「僕らは地域のスパイス」と話す吉原さん。地域おこし協力隊という新たに加わった持ち味が、地域の素材と化学反応を起こし、ますます魅力的なまちへと進化しつつあります。今後も吉原さんの活動に目が離せません。

LINK UP 吉原 剛史

■朝来市地域おこし協力隊(竹田地域自治協議会所属)
[問]079-674-2128(竹田地域自治協議会/朝来市和田山町竹田650)

(FB)あさこいひと 朝来市地域おこし協力隊
(FB)あさごぜる

 

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